サッカーと格ゲー。普通なら交わりようが無い二つのジャンルが、この日突然交わりました。2025年4月24日に発売予定の格闘ゲーム、「餓狼伝説 City of the Wolves」に、プレイアブルキャラクターとしてサッカー選手のクリスティアーノ・ロナウドの登場が発表されました!
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ええ、訳が分かりませんよね。自分は格ゲーに詳しくないサッカーファンですが、サッカーファンから見ると意味不明なニュースです。もちろん格ゲーファンにとっても意味不明なニュースだったようで、みんなの反応は「すごい!」の前に「なんで?」でした。
この一見謎すぎるコラボレーションを紐解くために、餓狼伝説とクリスティアーノ・ロナウドについて調べてみましょう。
餓狼伝説とSNK
まず、餓狼伝説は1991年にSNKが送り出した格闘ゲームシリーズで、1990年代の格ゲーブームではストリートファイターⅡと双璧を成すタイトルとしてブームを盛り上げた伝説的タイトルです。
元々アーケードゲームで名タイトルを連打していたSNKですが、餓狼伝説のヒットで莫大な利益を得ると、ゲーム機「ネオジオ」の各バリエーション開発や、アミューズメントパーク「ネオジオワールド」の経営など、急速な経営拡大を始めてしまいます。
遊園地事業が大赤字となり、格ゲーブームが下火になると、格ゲー開発にリソースを割き過ぎていたため方針転換も叶わず急速に経営状況が悪化。その後手を尽くすも経営破綻に陥り、餓狼伝説シリーズも1999年に登場した「餓狼 MARK OF THE WOLVES」を最後に姿を消してしまいました。
株式会社SNKが倒産した後、系列会社として株式会社プレイモアが設立。版権管理業務を行う法務関係専門の企業として設立されたプレイモアはSNKの知的財産権を落札し、株式会社SNKプレイモアに改名。それからは格ゲーを中心に様々なゲームを開発。しかし、SNKプレイモアの事業の中心となっていったのはパチスロ事業でした。
日本ではパチスロ事業が本業になっていった中、アジア方面では筐体の販売事業が続けられており、2010年代になってもアジアでは旧SNKの格ゲーが盛んに遊ばれていました。その縁もあり、2015年には中国のオンラインゲーム会社37GamesがSNKプレイモアを買収。これを機にパチスロ事業から撤退し、社名も株式会社SNKと改め、ゲームメーカーとしての再起を目指すことになりました。
2021年になるとサウジアラビアのムハンマド・ビン・サルマーン皇太子(略:MBS)が設立したミスク財団傘下のElectronic Gaming Development Company(EGDC)がSNKの筆頭株主に。ここで出てきたサウジアラビアがクリスティアーノ・ロナウドと餓狼伝説を繋げる存在になります。
サウジアラビアのサッカー界
サウジアラビアのサッカー界を代表するプロサッカークラブとして、「アル・ナスルFC」があります。国内で数々のタイトルを獲得し、代表チームにも数々の選手を送り出してきたアル・ナスルは、2023年に世界的スーパースターのクリスティアーノ・ロナウドと契約します。この頃からサウジプロリーグの各クラブはとんでもない金額でヨーロッパから選手たちを引き抜き、リーグのレベルを飛躍的に向上させました。
「CR7」ことクリスティアーノ・ロナウドはサッカー界において今なお伝説のストライカー(点取り屋)として活躍を続ける選手で、主にマンチェスター・ユナイテッドとレアル・マドリードでエースとして活躍。数え切れないほどチームタイトル・個人タイトルを獲得し、リオネル・メッシと共に2000〜2010年代のサッカー界を支配し続けたサッカー選手です。一時期は世界最優秀選手賞にロナウドかメッシしか選ばれない時期もありました。
しかし、2021年にマンチェスター・ユナイテッドへ復帰すると陰りが見え始め、スタメンが確約されなくなるとクラブと喧嘩別れする形で退団。どこに移籍するのかと騒がれ、新天地に選んだのがアル・ナスルでした(年齢・移籍金・年俸などの条件面でロナウドを獲得できるのは中東のクラブだけだろうと言われていました)。
世間の風潮として、中東のサッカーリーグは「年金リーグ」とみなされていて、ベテラン選手が一線を退き引退前に金を稼ぐための場所と見る空気が強く、実際にリーグレベルの低下と破格の待遇で移籍後にパフォーマンスをガタ落ちさせる選手が多いです。
しかし、異次元のトレーニング好きであるロナウドは自身が主役となれる環境を手に入れ復調。ポルトガル代表でもゴールゲッターとして復活し、殆どのプロサッカー選手が引退している40歳になっても輝き続け、スター選手が流入し続ける今もなお、アル・ナスルだけでなくサウジプロリーグの顔として君臨しています。2022年のカタールワールドカップでは「もう限界か……」と思ってしまうパフォーマンスだったので、あそこからサウジプロリーグ移籍で蘇ったのは信じられません。
そして、2023年6月にはMBS氏が管理するサウジアラビアの政府系ファンド「Public Investment Fund(PIF)」が、アル・ナスル含むサウジプロリーグの4クラブの経営権を取得します。なので、実質的にロナウドの所属クラブのオーナーがMBS氏となり、MBS氏とロナウドに直接の繋がりが生まれました(PIFはイングランドプレミアリーグのニューカッスル・ユナイテッドを買収したことでも知られています)。
サウジアラビアをeスポーツの国にするために
話をサウジに戻して、現在のサウジアラビア王国の事実上の統治者に君臨しているMBS氏は、保守的で石油資源に依存しているサウジアラビアの現状を打破しようと「より穏健なイスラム」のスローガンを打ち出し、文化的にも経済的にも変革を推し進めており、スポーツの分野にも相当に力を入れています(サウジビジョン2030)。
また、自身がアニメ・ゲーム好きであることから国内でのエンターテインメント事業の推進にも携わっており、サブカルチャーの解禁を進めているようです。イスラム圏でも特に戒律の厳しいサウジアラビアなので、MBS氏の働きがなければサウジアラビアと日本がサブカルで繋がることは無かったでしょう。
サウジアラビアではeスポーツワールドカップ(EWC)が2024年から行われており(前身はGamers8)、2025年夏の大会ではまだ発売されていない餓狼伝説COTWも種目の一つとして発表されていました。これはサウジアラビアをeスポーツの世界的拠点に定着させるための施策ですね。
つまり、MBS氏が力を添えた餓狼伝説がEWCで華々しく復活し、そこにサウジプロリーグ所属の世界的スターであるクリスティアーノ・ロナウドがゲームキャラとしてコラボ、サウジアラビアがスポーツとゲームで世界を牽引することを印象付けるシナリオとしてこれ以上のものは無いと判断されたのでしょう。MBS氏の趣味も多分に含まれているかもしれませんが、サウジアラビアの国策として餓狼伝説とロナウドをくっつけるのは理にかなっているわけです。
ちなみに、2024年のEWCの時にMBS氏はロナウドと会談を行い、ロナウドがサウジアラビアの伝統衣装を身に纏って授賞式に出席しました。去年の時点からロナウドはEWCに関わっていたということですね。もう既にこの頃から餓狼伝説参戦の話が出ていたのでしょう。
まぁ、それはそれとしてやっぱりロナウドが格ゲー参戦は笑っちゃいますね。2024年のEWCでサッカーゲームのEA Sports FC 24も種目に入っていたわけですから、2025年もEA Sports FC 25でロナウドとコラボさせればええやんとか思っちゃいますが、そこは餓狼伝説であるということが大事だったのでしょう。餓狼伝説はアジアの伝説的ゲームであり、皇太子が自由に口利き出来るタイトルなわけですから。
このコラボに餓狼伝説ファンはどう思っているのか。世界観ぶち壊しと思うか、そもそもオイルマネーが無ければ餓狼伝説の続編は出なかったのだからと温かい目で見ているのか。とりあえずサッカーファンの自分は爆笑しました。サッカーボールを使って攻撃するのがシュールだし、サッカーボールを使わずに蹴って投げてしてるのはもっとシュールだし。
流石に国が関わってて断れなさそうとはいえロナウドが許可をしたのも凄いなと。ロナウドにこんなことさせるなんて普通は出来ないですよ。クリロナがコラボでやってくれることなんて、音楽ライブでタオルを振り回すくらいしか……キマグレン?なぜ笑うんだい?
果たしてロナウドはぶっ壊れキャラなのか、玄人キャラなのか、はたまた良調整キャラなのか。そもそも餓狼伝説COTWはしっかり仕上がっているのか。サウジアラビア肝いりのビッグコラボレーションの行方やいかに。
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