こんばんは、麻乃ヨルダです。本日はYoutubeでフルで見られるサッカーの試合をお届けしていきます。
サッカーファンにとっての長年の悩みの一つ、それは過去の試合のアーカイブが気軽に見られないこと。有料チャンネルでは主にその年の試合と去年の試合をアーカイブで残しておいてくれたりしますが、それより前の試合のアーカイブは消されたりして、過去の試合ほど遡ることが難しくなります。再放送されるのは一握りの名勝負だけ。
ハイライト動画ならまだしもフルマッチの古い動画は胡散臭い違法アップロードくらいでしか見られず、公式でいつでもフルマッチの動画を見られるという環境がありませんでした。しかし、近年そんな状況を変化させる出来事がありました。コロナショックです。
コロナ禍で自宅生活の世の中になると、各業界が外出せずに動画や配信などでコンテンツを楽しめる施策を打つようになりました。サッカー界も例外ではなく、この時期からYoutubeで各サッカー協会やクラブが過去の試合のフルマッチ動画をアップするように。
サッカー日本代表の試合がアウェー戦のみ有料チャンネル限定に移行したり、欧州チャンピオンズリーグ決勝が地上波で放送されなくなったり、我が国ではむしろオープンにサッカーに触れられる機会が減ってしまっているこの頃。ちょっとでもサッカーの布教に貢献すべく(あと違法視聴を駆逐すべく)、「Youtubeでも試合見られるんだぜ!」という記事を書くことにしました。
今日お届けする試合はFIFAConcacaf公式チャンネルがアップしている「2005-2006 リーガ・エスパニョーラ第12節 レアル・マドリード対FCバルセロナ」です。
敵地で披露されるロナウジーニョ劇場
今回はスペインサッカーの二大巨頭、レアル・マドリードとFCバルセロナが対戦する世紀のダービーマッチ、エル・クラシコの名勝負をお届けします。
2000年代はレアル・マドリードとバルセロナにとって激動の時代でした。レアル・マドリードは1995年にロレンソ・サンス会長が就任してから不安定なシーズンを続け、無冠でホルヘ・バルダーノ監督を解任、圧倒的な成績でリーグ優勝を果たすもつまらない守備的な戦い方だとしてファビオ・カペッロ監督を解任、UEFAチャンピオンズリーグで優勝するもリーグ戦で躓いたのでユップ・ハインケス監督を解任と、毎年監督が変わりチーム作りをやり直す状態でした。
そうこうしながらも確実な補強で優秀な選手が集まり、有望な生え抜き選手も現れ、選手の質は高まっていきました。そして1999年にジョン・トシャック監督の解任に伴い、Bチームの監督であったビセンテ・デル・ボスケが昇格。デル・ボスケはチームをUEFAチャンピオンズリーグ優勝に導きます。その後、会長選挙でフロレンティーノ・ペレスが会長に就任し、輝かしい時代が始まります。
1992年にホームスタジアムであるエスタディオ・サンティアゴ・ベルナベウを改修してから財政問題に悩んでいたレアル・マドリードですが、ペレス会長がこの問題を解決し、スター選手をかき集める「銀河系軍団(ロス・ガラクティコス)」政策を開始します。
ルイス・フィーゴ、ジネディーヌ・ジダン、ロナウド、デビッド・ベッカムなど毎年のように世界最高の選手を獲得し、世界中の話題をさらっていきます(当時サッカーを全然知らない僕でも「レアル・マドリード=銀河系軍団くらいは知ってましたね」)。スター揃いのチームは強さと華でその名を世界に轟かせていきました。
FCバルセロナは1990年代前半にヨハン・クライフ監督が率いる「ドリームチーム」で黄金期を迎えます。クライフ監督が退任してからはボビー・ロブソン監督が「戦術ロナウド」とも呼ばれるロナウド中心のチームでタイトルを獲得、次に就任したルイ・ファン・ハール監督がオランダ代表選手を集めてオランダ化したチームでタイトルを獲得。
しかしクライフ後の成功は短期的な成功に終わり、オランダ化によってカンテラ(下部組織)出身選手が冷遇され、成績も低迷していきます。更に、キャプテンも務めていた中心選手のルイス・フィーゴが銀河系政策を始めたレアル・マドリードに強奪されると、チームは暗黒期に。4シーズン連続の無冠に終わり、銀河系の輝きの影に完全に隠れてしまいました。
バルセロナの転機となったのは、2003年のジョアン・ラポルタ会長就任。クライフの顧問弁護士だったラポルタはクライフの意向を反映させ、フランク・ライカールト監督を招聘。初年度は無冠に終わるものの、ロナウジーニョやエドガー・ダーヴィッツらの加入でチームの建て直しに成功しました。
そして2004-05シーズン。サミュエル・エトーらを獲得し、Bチームからあのリオネル・メッシが昇格し、遂に久しぶりのリーガ優勝を果たします。完全に息を吹き返したバルセロナと、銀河系軍団となったレアル・マドリードとの対決はどうなるのでしょうか。
……と、熱い戦いを煽りたいところなんですが、実はバルセロナが復活をしている裏でレアル・マドリードは銀河系軍団が崩壊していました。2000年から2006年までのペレス政権でチームが好調だったのは前半までで、後半からはネームバリューと成績が伴わないハリボテのチームになっていました。
その原因は「守備の軽視」。豪華なアタッカーを揃えた一方で、後ろを支える守備陣を冷遇し、異を唱えた主将のフェルナンド・イエロ、中盤の守備を一人で担っていたクロード・マケレレを放出。スター軍団を取りまとめていたデル・ボスケ監督も解任されてしまいます。
クラブはこの穴を生え抜き選手で埋めようとし、スター選手と生え抜き選手を共存させる「ジダネス&パボネス(生え抜きにフランシスコ・パボンという選手が居て、このキャッチーなワードに名前を使われていました)」政策だと打ち出しましたが、守備のスター選手たちを放出したチームはバランスが崩壊。
その結果、生え抜きでクラブの象徴的選手だったラウール・ゴンサレスが本来のポジションではない中盤で守備に走り回ることになり、更にバランスが悪化していくとジダンら外からのスター選手も守備に忙殺されるように。守備はぐちゃぐちゃ、攻撃は個人技頼み、スター選手もベテランになり輝きが見せられなくなっていくと、銀河系軍団は瞬く間にその輝きを失いました。
というわけで、今回のクラシコは脂が乗ったライカールトバルサと、銀河系末期のレアル・マドリードの対戦となります。サンチャゴ・ベルナベウでサムネの通り0−3という一方的なスコアになったゲーム、このゲームで最も輝いたのは、前年にFIFA最優秀選手賞も獲得し全盛期を謳歌するロナウジーニョ。壊れた銀河系軍団に引導を渡すほどのパフォーマンスを見せたロナウジーニョのプレーをご覧ください。
ネタバレあり!試合の感想
レアル・マドリードのフォーメーションは4−3−1−2。GKにカシージャス、DFラインは右からミチェル・サルガド、セルヒオ・ラモス、エルゲラ、ロベルト・カルロス。ピボーテにパブロ・ガルシア。インサイドにベッカムとジダン。トップ下にラウール。2トップはロナウドとロビーニョ。
この並びだけでもうバランスの悪さが伝わってきますね笑。ベッカムの中盤はまぁ良いとして、ジダンも本来守備で戦わせる選手ではないので、守備時はほぼ4−2(+1)くらいで守っているシーンも多いです。
バルセロナのフォーメーションは4−3−3。GKにビクトル・バルデス。DFラインは右からオレゲール、プジョル、マルケス、「ジオ」ファン・ブロンクホルスト。3センターはピボーテにエジミウソン、インサイドにシャビとデコ。3トップはメッシ、エトー、ロナウジーニョ。今見てもワクワクするメンバーが揃っています。
最初に決定機を得たのはバルサ。9分にデコが負傷して間が空いた直後、DFラインの裏に走ったエトーにロナウジーニョから素晴らしいフライスルーパスが通り、カシージャスと1対1に。カシージャスの圧でシュートはギリギリ枠外へ。この試合のロナウジーニョはパスとドリブルでボールを持つ度にチャンスを作り出します。
その5分後、ベッカムのロビーニョへの危険なスルーパスを凌いだバルサはバルデスのスローインからオレゲールが運び、メッシにパスを出すとメッシが中央へドリブル。エトーと交錯してしまいますがエトーがボールを掻っ攫ってそのままシュートを撃ち、これが先制点になります。
ゴールを決めたエトーに対してタバコをふかして睨みつける、叫ぶ、中指を立てる三者三様のマドリディスタがバッチリ映っているのがなんだか面白いです笑。エトーは元々レアル・マドリードのカスティージャ所属で、トップチームで出番がないまま武者修行を続けてバルサに引き抜かれたので、確か遺恨があったような。前年のクラシコも見てみたいなぁ。LIGAのチャンネルでもっと古いクラシコも見せてくれないだろうか。
序盤に失点してしまったレアル・マドリードは反撃をしたいところですが、攻撃はカオス。ロナウド、ラウール、ジダンが中央に居て、ロビーニョは右サイドを主戦場にしつつも左にも流れたり。ジダンが真ん中に入るとロナウドが左に流れたり、その場その場でかなり個々人が自由に動いてポジションを調整しています。
よく言えば流動的ですが、歪な陣形が更に歪んで即興的すぎるので、選手たちもやりやすそうにしている感じはありません。自由というか無秩序というか。個人技とコンビネーションが上手く化学反応を起こすの待ち、みたいな。
攻撃の形は前線のスター選手が集まってガチャガチャと中央突破か、サイドバックが上がってサイド攻撃が主。どちらもかなりリスクを孕んでいて、中央突破できなかったら真ん中でボールを失ってカウンターを受けますし、サイドバックの上がった裏を狙われるのも危険ですし、しっかり攻撃を完結できないと歪んだ陣形でカウンターに晒される危険がずっとありました。
前半の内はそういったシーンは多くありませんでしたが、40分にサルガドの裏のスペースでシャビのパスを受けたロナウジーニョがボールをセルヒオ・ラモスと1対1になってメッシにクロスを送ったり、後半の伏線になりそうなシーンが時間の経過と共に見えてきます。
遅攻においては、バルセロナが右サイドから打開するシーンが増えていきます。なにせマドリーの左サイドはロベカルとジダンなので、ジダンはそこまで守備に下がらず(特にサイド深くまで戻ることは少なく、戻ってもインサイドの位置まで)ロベカルが一人でサイドの対応をすることも多く、そこでメッシがロベカルを連れて中央に入ればオレゲールが空き、オレゲールにロベカルが食いつけばメッシが空き、という感じにメッシらのポジショニングでマドリーの左サイドを混乱させることができていました。
加えてエトーやロナウジーニョが右に流れたり、シャビが気を利かせたりしてコンビネーションをすると、チャンスが生まれる気配。散発的にチャンスを作るも決定機までいけないマドリーと、狙いを持って敵の守備を攻略しつつあるバルサという構図でスコア通りの内容となった前半が終了します。
後半が開始。バルサは47分に早速右サイドを崩します。シャビがボールを受けると、ロベカルの裏で待っていたメッシにパス。メッシはカバーに来たパブロ・ガルシアとジダンを相手にしつつオレゲールにボールを戻し、ジダンと相対したオレゲールは中に入りこんだシャビにパス。シャビはすぐにライン裏に走り込むメッシにスルーパスを出し、メッシのシュートをエルゲラがブロックします。ロベカルとパブロ・ガルシアを動かしてその裏を突く攻撃ですね。
52分、バルサの速攻が炸裂。ジダンの横パスをラウールがコントロールミスすると、ジオが素早くサルガドが上がっていたスペースに居たロナウジーニョにパスを出し、ロナウジーニョがドリブルで一気に前進。サイドを駆け上がるジオにスルーパスを出します。ジオのクロスが外に流れていったのでマドリーは事なきを得ましたが、ここからまるでリプレイのように同じシーンを何度も見ることになります。
58分、足を痛めていたラウールに代わってグティが入ったすぐ後にスコアが動きます。右サイドからサルガド、ベッカムと立て続けにクロスを送り、マルケスが二つ続けてクリアすると、こぼれ球を拾ったデコが左サイドでフリーになっていたロナウジーニョにパス。バルサのカウンターが発動し、マドリーはサルガドを除いたDF3人、バルサは3トップで数的同数のカウンターになってしまいました。
セルヒオ・ラモスと1対1になったロナウジーニョは、セルヒオ・ラモスのタックルを誘って縦にかわすと、カバーに来たエルゲラを軽いフェイントで置き去りにし、そのままの流れでシュートをニアに突き刺します。数的同数とはいえ、マドリーのセンターバック2人を子供相手のように扱って進んでいく衝撃的なゴールでした。
マドリーもやられっぱなしではありません。直後、マドリーが高い位置でボールを奪いジダンがライン裏にボールを供給すると、ロナウジーニョに負けじとロビーニョが深い切り返しの連続でプジョルをかわしてクロス。ロナウドの反応が僅かに遅れましたが、個人技でチャンスを生み出すマドリーのやりたいことがようやく出ました。
マドリーはここから火が点いたように攻勢を仕掛けます。ジダン、ロビーニョ、ロベカルで左サイドを崩したり、右に流れたジダンからロナウドに良いパスが通ったり、点の気配がしてきます。すると66分にはパブロ・ガルシアも下げてジュリオ・バチスタを投入。グティとベッカムにドブレ・ピボーテをやらせるファイヤーフォーメーションで点を取りに行きます。
69分、チャンスシーンを活かせなかったメッシに代えてイニエスタ投入。メッシよりも周囲を使いながら崩しをしていくイニエスタがリズムを変え、マドリーもサルガドのクロスをバチスタが合わせ、お互いに交代カードが変化をつけていきます。
そして76分、ハーフスペースでボールを受けたロビーニョがサルガドとパス交換をし、サルガドが内側にラン。空いたサイドをベッカムが回ると、そこに意識をつられたバルサの逆を取ってロビーニョが縦パス、フリーだったサルガドにパスが通ります。サルガドの左足シュートはバルデスが止め、決定機をなんとか凌ぎました。
その直後。リプレイが流れている間にロナウジーニョにボールが渡っていました。またしてもサルガドが上がった裏、セルヒオ・ラモスと1対1。今度はディレイしてロナウジーニョの様子を見るセルヒオ・ラモスでしたが、その対応はお見通しと言わんばかりにギアを上げて縦突破を仕掛けるとあっさりセルヒオ・ラモスを置き去りに。ファウルすら許さないままカシージャスと1対1になると、いとも簡単にシュートを流し込み0-3。マドリーの守備陣に悪夢を見せるドブレーテです。
2点目を決められた時のマドリディスタたちは怒っていて、3点目を決められた直後も怒りを見せるマドリディスタたちが居ましたが、その後降参を認めるようにマドリディスタたちはスタンディングオベーション。敵のパフォーマンスを称える拍手をし、当時世界最高の選手だったロナウジーニョに脱帽していました。マドリディスタたちがこうして敵を認めるリアクションをするのは、歴史上でも数回しかない事件でした。
その後は大きな動きもなく試合終了。両チームのパフォーマンス差、そしてロナウジーニョの圧巻のプレーに、ベルナベウの観客たちはただ手を叩くしかなかった、伝説の夜になりました。
このシーズン、マドリーはシーズン途中でルシェンブルゴ監督が解任されペレス会長も辞任。対するバルサはリーガ、スーペルコパ、チャンピオンズリーグの3つのタイトルを獲得。時代の終わりと全盛期、見事に明暗が分かれたのでした。
しかし良い時というのは続かないもので、その後の2年間はエトーとメッシが負傷離脱、デコらが移籍志願、ロナウジーニョは夜遊びでコンディション不良など、糸が切れたように崩壊。新政権のマドリーにリーガのタイトルを奪われ、ライカールト監督が退任しBチームの監督だったペップ・グアルディオラにチームの再建を任せることになりました。
暗黒期から頂点に上り詰め、すぐに壊れてしまったバルサ。そんなバルサと共にあったロナウジーニョの短い輝きを楽しめる一試合でしたね。とはいえ、ロナウジーニョの代名詞である「遊び心」はこの試合では見られず、凄まじいスピードとテクニックで守備を破壊する「強さ」が際立っていました。一回加速したら誰にも止められない、恐怖のウイング。
この後ロナウジーニョはミランに移籍してもう一度輝きを取り戻すので、ミラン時代の試合も色々見ていきたいですね。バルサ時代ほどフィジカル能力で圧倒するシーンは減って、テクニックで勝負するシーンが増えたと思われるので、“らしい”プレーはミラン時代の方が多いのかも?自分はリアルタイムのロナウジーニョを知らないので、もっとロナウジーニョの出ていた試合を追ってみたいです。
Youtubeでフルマッチを見よう!
自分のYoutubeチャンネルで、今回紹介したようなフルマッチ動画をまとめたプレイリストを作っています。とりあえず良さげな試合のフルマッチ動画はプレイリストに入れておいて、見終わったらリストに残すか残さないか決めて試合を厳選していこうと思っています(なのでリストの内容は日々変わります!)。
リストに残す(ブログで記事を書く)基準は、「結果が分かっていても楽しめるくらい面白い試合」か「サッカーを語る上で知っておかなきゃいけないくらいの歴史的な試合」という感じです。Youtubeでいつでも何度でも見られるからこそ、他の動画や配信アーカイブと比べても特別な視聴体験が出来る試合を集めたいなと。約2時間、映画1本分の時間を使うわけですから、他のコンテンツではなくサッカーじゃないといけない理由を見出だせるような試合を選んで紹介していきたいですね。
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