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オススメ作品紹介「私は金正男を殺してない」

投稿日:2021年7月5日 更新日:

ずっとやりたいと思っていた、自分が見た中で「これは面白い!」と感じた作品をアニメ・映画・ドラマ問わず紹介するコーナーです。初回は先日NHK BSで放送されたのを見て衝撃を受けた「私は金正男を殺してない」です。



金正男暗殺事件の裏側に迫るドキュメンタリー

2017年2月13日、世界を驚かせる事件がマレーシアのクアラルンプール国際空港で起きました。なんと、あの「金正男」が若い女性によって殺されたというのです。しかも白昼の国際空港で、です。

金正男と言えば北朝鮮の第2代最高指導者「金正日」の長男であり、2001年には「東京ディズニーランドに行きたかった」という理由で日本に不法入国したこともある人物で、ある意味日本にとっても馴染み深い北朝鮮の重要人物です(日本のネットでは「まさお」なんて呼ばれたりしてましたね)。

そんな人間が殺されたとあってこの事件は日本でも大きな話題となりました。政治的な重要人物が公衆の面前で暗殺されるなんて、この現代において起こりうるのか、と……確かに、2011年に北朝鮮の最高指導者に就任した金正恩にとって、この兄の存在は目の上のたんこぶ。後継者争いの相手だっただけでなく、北朝鮮から離れた後も北朝鮮に政治体制に対して苦言を呈したり、アメリカのCIAなどとも取引を行い国の情報を売っていた「裏切り者」です。それでも、「まさかそこまではやらないだろう」という事件が起こってしまったことに世界は驚きました。

しかしこの件には大きな謎がありました。実行犯の2人の女性についてです。そもそもなぜ、この2人の女性は監視カメラだらけの国際空港でこんなにも堂々と事件を起こしたのでしょうか。確かにこういった公共の場であれば金正男も警戒が緩むかもしれませんが、こんなところで事件を起こせば実行犯は一瞬で特定されてしまいます。なぜそこまでのリスクを背負ったのか。

また、金正男を襲った後の彼女たちの行動も不可解です。彼女たちは自信満々に空港内を歩き回り、トイレに入って凶器となった手のひらのVXガスを洗い流していたのです。人殺しをしておいてこんな行動をするのは、自分が正義を行ったと心から信じている狂信者か、自分が何をしたかも分かっていない騙された人間かのどちらかでしょう。

そんな謎に迫るのがこのドキュメンタリー映画です。この映画では事件に関わった北朝鮮の工作員たち、2人の女性がどのように事件に巻き込まれていったか、2人の裁判の行方が記録されています。その内容がとても衝撃的でですね、「フィクションじゃないのか!?」と思ってしまうほどよく出来た話でした。まさかこんな手口で自分が暗殺者に仕立て上げられていくなんて誰も想像できませんよ……

SNS時代だからこその暗殺事件

2人の女性は北朝鮮の工作員に「日本のドッキリ番組に出ないか?稼げるぞ」と誘われ、彼らの動画撮影に協力してしまったことで彼らの陰謀に巻き込まれてしまいました。

ドッキリの内容は「通行人の顔に後ろから手で目隠しをする」というもの。相手をより驚かせるため、ベビーオイルを塗ってベタベタの手で顔を触るよう指示されたようです。そうして何度も動画撮影を重ねていき、“本番”もこれまでと同様にベビーオイルと言われた液体を塗った手で“男優”にドッキリを仕掛けることになったのです。彼女たちは自分の手のひらに塗られたのがVXガスなことも、男優と呼ばれた男が金正男であることも知らずに……

今の時代はスマートフォンで簡単に動画撮影と動画編集ができます。そして、若い頃からネットで様々な動画を見てきた人の中には「面白い物が撮れれば多少は他人に迷惑を掛けても問題ない」という認識を持った人も少なからず存在します。そうした現代の価値観の中で「そういうのもあるんだろう」と世間知らずの若者を納得させる手段として、ドッキリ動画の撮影を持ちかける工作員の手口は正直言って「面白い」と思ってしまいました(事件に巻き込まれた方々には申し訳ありません)。ドッキリの方法がそのまま暗殺の方法に繋がっているあたりもまぁ「見事」だなと。

こうして知らず識らずの内に暗殺者として育てられていた2人。ドッキリ番組に出ていたはずなのに気づけば殺人者として法廷に立たされ、検察側から罪を追求される立場にいました。「ドッキリ番組と言われてやった」と主張するも、まるで作り話のような主張は聞き入れられません。そんな彼女たちの主張を証明したのが、2人のSNSに上げられていた数々の動画だというのがこれまた現代を象徴するような事件だと言えます。

人殺しの罪を背負って

この事件が物哀しいのは2人の女性の顛末。インドネシア国籍のシティ・アイシャは貧しい家に生まれ、16歳で家政婦として出稼ぎに行き結婚・出産・子育てを経験し、4年後には離婚により息子と離別、その後マレーシアのホテル内にあるマッサージ店で働いていました。ベトナム国籍のドアン・ティ・フォンも貧しい農村で生まれ育ち、アイドルを夢見て都会のハノイに旅立つも芽は出ず、夜の街で仕事をして日々を凌いでいました。

お金に困って夜の街で暮らす女性、そんな彼女たちに北朝鮮の工作員は「稼げる仕事がある」と甘い声を掛けました。簡単な仕事に高い報酬、貧しい2人は降って湧いた夢のような話に釣られてしまったのです。

「そんなうまい話は無い」と言ってしまうのは簡単ですが、困窮した生活から安易な選択肢を選んだ結果が「国際的な殺人者」なんて、過ちと罪が吊り合わないでしょう。社会や組織に搾取され続けた2人の人生はこの一件で完全に破壊されてしまいました。

しかし、多くの人は暗殺事件が置きた後に彼女たちがどうなったか・どうしていたかを知らずに過ごしているはずです。そんな2人の人生をできるだけ多くの人に伝える意味でも、この作品はとても貴重だなと感じました。

普通の女性が国家の陰謀に巻き込まれていく様子を写し出した衝撃的ドキュメンタリー「私は金正男を殺してない」、オススメです。



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