久保 建英選手が日本代表に呼ばれ始めてA代表デビューしてから2年が経ちました。その前から五輪代表の試合でも久保選手を見る機会がありましたが、彼のプレーを見ていく中で年々プレースタイルが変化していってるのがすごく気になっているところです。
どこが、というと以前の久保選手は所謂“プレーメーカー”的な、周りを活かして自分も活きるタイプの選手でした。今もその面影は残っていますが、今の久保選手はより“アタッカー”としての雰囲気が強く、プレー選択としてまず第一に「自分が決定的な仕事をする」という勝負の選択肢を取ることが多いです。
それはどうしてなのか、その変化は良い方向に進んでいるのかを自分なりに考えていきたいと思います。
バルサ育ちの至宝
久保選手といえばバルサのカンテラで育ち、育成年代から「あいつはヤバいぞ」と言われてきた選手です。自分はカンテラ時代の久保選手のプレーは見ていなかったので、そういった噂話を聞いて「すごい子がいるんだなぁ」くらいに認識していました。
それからFC東京と契約して、マリノスにローンで行って、とJリーグでその才能を見せつけていくわけですが、自分はJをそんなに見ないのでそこでもプレーを見る機会はなく。自分がちゃんと久保選手のプレーを見たのは五輪代表の試合だったと思います。
衝撃を受けました。自分が観戦者として中継カメラから見ている中で「あそこ空いてるな」「あの選手ここで使ったら面白そうだな」と俯瞰で得られる選択肢を、久保選手は次々と選んでプレーしていたのです。まるでテレビゲームのようにピッチを俯瞰で見ながらプレーを選択しているかのようで、「こりゃ怪物だわ」とプレービジョンの広さに驚かされました。イニエスタ的なバルサイズムを感じる選手だと。
そんな中で、久保選手のレアル・マドリード移籍が報じられました。カンテラーノとはいえバルサからレアルかい!と驚かされましたが、それよりもレアルに行った後でどういうキャリアを歩むのかが気になりました。当然、久保選手といえど“あの”レアルで出場機会を得るのは並大抵のことではありません。やはり、という感じでレアルのカスティージャ(Bチーム)でプレーした後、マジョルカにローンで修行をすることになります。
そして、ここから現在に至るまでリーガ・エスパニョーラの各クラブに武者修行の旅が始まるわけですが、この辺りから久保選手のプレースタイルに変化が出てきました。
自分が結果を出さないといけない環境
若手選手のレンタル移籍が行われるにあたって、選手を出す側と貰う側には大きな意識の差があります。選手を出す側としては「いっぱい試合に出して経験を積ませてやってくれよ」と選手の成長を期待して送り出すわけですが、貰う側は「そんなの知ったこっちゃない、とにかく結果を出せ」という気持ちで選手を起用していきます。
なにせ、どれだけ選手を育てたところでその選手は期限が過ぎたら元のクラブに帰ってしまいます(買取オプション付いてたら別だけど)し、その選手が成長したからといってお金が貰えたりするわけではありません。レンタルした選手は「助っ人」として見られているわけです。悠長に育ててみようなんて言っている暇はなく、とにかく目の前の勝ち点を手に入れるために何が出来るのかが求められます。そして、監督の求めるものに応えられなければ所属クラブを変えても結局はベンチを温めるだけになります。
そういった環境で、尚且つマジョルカというクラブは1部リーグと2部リーグを行ったり来たりするエレベータークラブ。選手の質も他のクラブと比べれば高くない、戦術的にも守備から入って少ない得点を守りきるやり方。そんなクラブで、同じプレービジョンを共有できる味方が多くない久保選手は個人での働きがより求められるようになりました。
また、マジョルカ以降のビジャレアルやヘタフェでも基本的にはプレーメーカーとしてではなくサイドのアタッカーなどで起用され、途中出場から流れを変えることが求められてきました。こうして、段々と数字に拘るアタッカー化が進んできた印象があります。
日本代表(五輪代表も含め)での立ち位置もその方向性を固めた要因に思えます。先日、日本がメキシコに3位決定戦で敗れメダルを逃した時、久保選手が号泣していた様子がカメラで抜かれていましたが、久保選手はそれだけのプレッシャーと役割を背負ってプレーしていました。五輪代表での久保選手は王様で、彼が決定的なプレーを成功させれば勝つし、出来なければ攻撃はなんともならなそうな気配がありました。
クラブでも代表でも、「点を取れアシストをしろ」という環境でプレーしていて、それに応えようとしているのが近年の久保選手だと思います。
狭くなっていく使い道
そういったプレーをしていく内に、確かに久保選手のアタッカーとしての能力は上がってきたように思います。ドリブルで相手を抜く、ゴールを奪う、ラストパスを決めるといった点に直結する仕事が増えてきました。
しかし、それと同時に以前であればシンプルに空いている味方・スペースを使っていたであろう場面で強引な勝負を仕掛けるシーンも増えました。それで無理にゴールをこじ開けられるならそれはそれでスーパーですがそういったこともなく、スコア・時間帯・エリアなどの要素と関係なく無理な勝負しては軽率なミスを犯すシーンも出てきました。明らかに以前よりも「近道」を探してプレーしているのが分かります。チームで戦うというより、自分と半径数メートル以内の敵味方とだけ戦っているような。
では、この変化がどういった方向に向かっているのかなと考えると、僕は個人的に良くない方向だと思います。というのも、元々狭かったプレイヤーとしての久保建英の使い道が、このプレースタイルの変化でより狭まったと感じるからです。
元々久保選手は良くも悪くもバルサのカンテラ上がりな攻撃的ミッドフィルダーという感じで、技術とプレービジョンは卓越していても、守備の強度が足りないしアスリート能力も足りないしということで、攻撃的ミッドフィルダーしか出来ないタイプの選手でした。
そういった部分がレンタル修行によって改善され、元々の良さは残しつつ使い勝手の良い選手になっていけばなと思っていましたが、残念ながらウィークポイントはそれほど改善せず、尚且つ強みであったプレービジョンもアタッカー化によって少し曇りかけているのが現状です。
そうなってくると、これから久保選手がレアルに戻るなり他のビッグクラブに移籍するなりした時、「抜群に上手いけど物凄く点が取れるわけでもないし、守備が怪しくて起用法が限られる」という趣向品のようなアタッカーを、好んで使ってくれるような監督がどれだけ居るのだろうかという話になってきます。
今は代表でもマジョルカでもトップ下あるいは右サイドで起用されて攻撃面での違いを見せているものの、ビッグクラブだとあの守備強度とアスリート能力ではサイドもインサイドハーフも厳しいでしょうし、かと言って本職のトップ下で彼を王様扱いしてもらえるかというと今の半端にアタッカー化した久保選手では難しそうです。
日本代表及び中小クラブでは王様をやらせてもらえるでしょうが、裏を返すとそういったビッグクラブ以外の環境でも「王様扱いして彼と心中するか、彼を外すか」の二択になる選手だと思います。結局、歯車として扱える選手ではないと思うので。
キャリアとして王様路線を行くのも決して悪くはないことだとは思うんですけど、久保選手の才能と期待値を考えるとビッグクラブで当然のようにレギュラーを張るくらいの活躍は見せてほしいので、取り扱いが難しくなっていく今の成長曲線は個人的にちょっとどうかなと感じるところです。
おわりに
なんだかんだ言ってもまだ20歳ですし、聡明な選手ですからこれからどうにでもキャリアを選べるとは思っているんですが、それでも今のプレースタイルの変化はちょっと危うい傾向だなと。「久保 建英の強みとは?」ってところが曖昧になってきて、弱みの部分はほぼそのままなわけですから、アタッカーとしてはキレていてもプレイヤーとしては成長してるのか?ってとこがなんとも言えないんですよね。アタッカーとしてリーグ戦10G10Aは毎年獲るくらいの吹っ切れ方すれば路線変更は成功だと自信を持って言えると思いますが。
あとは、五輪での涙でも感じられるような責任感の強さが悪い方向に出ないといいなと。チームスポーツの難しいところとして、「自分がチームを勝たせる」と気負うほどエゴを出しすぎたり即物的なプレーを選びがちになったりしますし、今の久保選手はそういったチームプレーとスタンドプレーのバランスが危うくなっていると感じるので。「自分が決定的な仕事をしなければチームが勝てない」的な。1人でサッカーをしてしまうような選手にはならないでくれたらいいなと思います。
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